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- edita -

ネットで知ったほんとうは怖い真実や不思議な物事

政権は多数派だけのものでない 京都大学 中西寛教授

 年が明け、通常国会が始まっても鳩山政権の政権運営は安定しない。年末に来年度予算案をまとめ、体調不良に伴う財務大臣の交代も大過なく実現したことで多少とも落ち着くかに見えたが、鳩山首相の献金問題に加え、小沢幹事長の政治資金疑惑で調子が狂った。繰り返すスキャンダルに加え、普天間問題や財政赤字への対応でも首尾一貫した姿勢が見られず、世論は次第にこの政権への失望感を深めているように見える。

 この不振の直接的原因として政権の要路にある人々の資質、能力の問題があることは否定できない。しかしより根本的な問題として、新政権が発足後半年近くたってなお、野党時代以来の党派的視点を脱却し得ず、国家を担う政権を担当しているという自覚が薄いことを指摘すべきであろう。首相は日本の最高権力者として警察・検察権を統(す)べる立場にある。そうである以上、同僚、朋友であろうと「検察と戦う」ことを是とするような発言をすべきではない。首相だけでなく、全閣僚やその補佐官は党員としての立場よりも公務員としての立場を優先すべきである。

 もちろん現代の民主政治では政党間の競争は不可避であり、政治家の頭の中から次の選挙のことが消え去ることはない。しかし少なくとも建前としては政権にある以上、党派の立場を離れて国家的見地で行動すべきである。建前抜きの本音だけの政治では党利党略のために政治を営んでいるという非難を免れがたい。政治にはやはり建前も重要である。

 たとえば民主党の首脳の多くがモデルと仰ぐイギリスでは、政府の前にしばしばHMという文字がつく。「国王(女王)の」という意味であり、国王(女王)自身は演説などで「私の政府」という言い方をする。実態としてはイギリスは議院内閣制であり、内閣は議院、特に下院に責任を負っている。しかし建前としては内閣が国王の補佐機関であった時代の制度を残しており、議会の多数派は内閣を構成することで議会における党派的対立を離れて、国王の権限を通じて国民全体の代表として行政権を掌握するのである。

 ところが日本の場合、現行憲法が制定される過程で議院内閣制を採用したものの、内閣と国会多数派の関係は曖昧(あいまい)にされたままであった。衆参両院でそれぞれ多数派が総理大臣を指名し、異なる場合には衆院が優越することになっている。この手続きで決まった総理大臣が自ら内閣を組織するから、議会多数派と内閣は全く一体となるだけでなく、総理大臣も内閣も多数党の従属的存在になってしまう。

 更(さら)に言えば、天皇の位置づけが曖昧なことも現行憲法の弱点である。昨年末の陛下と習近平中国国家副主席の会見をめぐる騒動は記憶に新しい。宮内庁長官が政権による天皇の「政治利用」を批判したのに対し、小沢幹事長を始めとする政権側は内閣の一員たる宮内庁長官が政権の意志に反対したことを非難した。この経緯は天皇の位置づけについて国家の最高首脳の間でコンセンサスがないことを示している。

 憲法上、天皇は「日本国の象徴にして日本国民統合の象徴」であり、その地位は「国民の総意」に基づくとある。諸外国の例にならえば、こうした天皇の憲法上の地位は元首のそれである。ただ、戦後日本は天皇が元首かどうかについて曖昧にしてきた。外国からの来訪者に天皇が会うか否かについて政治利用か公的行為かといった論争が起きるのも、またその決定を誰が行うのかといったことがはっきりしないのも、自民党政権下で問題をつきつめることなく慣習的に対応してきたことの帰結である。それが今回の政権交代で通用しなくなり、摩擦が生じたと見るべきである。

 そこでこうした問題を意識し、より明確なルールを検討することは重要かつ意義をもつものである。しかしその際、政権を握る者は元首の権威を損なわないようにしなければならない。元首の権威が象徴的、形式的なものになればなるほど、その権威は時の権力者がいかにそれを尊重するかにかかってくる。

 19世紀にすぐれたイギリス憲法論を書いたバジョットは、イギリス憲法には尊崇的部分と実際的部分があると区分し、国王の存在を前者に位置づけたのである。日本でも天皇の行動は憲法の規定に従うが、その地位は憲法典によって作られたものではなく、社会の価値観に依拠している。

 今国会では鳩山政権は予算成立後、国家戦略局の創設や国家公務員法の改正などを目指しているといわれる。詳細については評価はできないが、政治主導で国家体制を再編することは望ましい。しかしその際、政府の職にある政治家は政党員としてではなく国家に奉仕する公務員として行動する規範を確立し、その立場から常勤の公務員と協働する態勢をとるべきなのである。

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